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異文化と異次元の旅人

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2008年03月13日 (木)

【留学記】 LAのブルース

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1980年の夏、アメリカ留学に旅立った時、私は生まれて初めて飛行機に乗り、生まれて初めて日本を出た。伊丹空港では、多くの人に見送られて颯爽と出発したものの、実は搭乗手続きがよく分からず、まごまごしているうちに飛行機に乗り遅れそうになった。国際便に乗り換える成田空港でも、まるで田舎者のように落ち着かなかった。

しかし、一旦飛行機に乗るとロサンジェルスまでは思ったより早かった。学生時代、大阪から東京まで12時間近くかかる鈍行列車をしばしば利用した経験があるので、東京よりロスのほうが近いと感じたのだろう。

機中の8時間、私は一睡もしなかった。留学生活への期待で興奮していたわけではない。実は、提出期限を延ばしてもらった物理実験のレポートを必死に書いていたのだ。直前までのアルバイトしかり、出発前日の暴走族襲撃しかり、飛行機中のレポート作成しかり、その頃の私は目の前の出来事に対処するのに必死で、感傷に浸る余裕などほとんどなかった。

唯一の例外は、ふとした時に目に留まる、空港で交換した、男物らしくない腕時計。物陰からひっそりとこちらを見つめていた彼女のことを思うと、ほんの少し胸が痛んだ。

さて、ロスには夕方到着したが、東海岸行きの国内線に乗り換えるのは翌朝だった。ロスで時間があるので、学生時代の英語クラブで、良きライバルとして数々のバトルを繰り広げたK商大の男に連絡をとってみようと考えた。私は何年か留年していたので、同級生の多くは既に卒業して就職している。彼も中堅の商社に就職し、半年前からロスに赴任していると聞いていた。

彼の連絡先は知らなかったが、番号案内で会社の電話番号が分かった。早速会社に電話すると、彼は外出中だと言う。伝言を残して、何時間か空港で待つことにした。

彼に会いたかったのは、単に懐かしいというだけはでなく、初めて外国に出て、少し自信をなくしていたからかも知れない。

ロスの空港に降りた時、荷物を一旦受けとるのか最終目的地まで直送してもらえるのか分からず、荷物を扱っていた中年の作業員に尋ねたものの、もごもごと早口でしゃべるばかりで、何度聞き返しても彼の言っていることが理解できなかった。それまで英語には多少自信を持っていたので、かなり落ち込んでしまった。

おまけに、ロスの空港は広く、そもそも空港なんて生まれてはじめて利用するので、どこにどう行けばよいのか案内を読んでもよく分からない。そこで、知り合いに頼ろうと弱気になったのかもしれない。

待つこと2~3時間して、彼に連絡がとれ、空港に来てくれるという。久しぶりに会う旧友は頼もしかった。彼の名は、ブルース。ニックネームだ。

彼の運転するクルマで街に出た。免許を取ったばかりで、まだ高速道路では上手く走れないとか言いながらすっ飛ばす。レーンからはみ出したり、高速道路から降り損ねて急停止したり、助手席で生きた心地がしなかった。

夜レストランに入ったが、私はどう振舞っていいのか戸惑った。勝手に座ればいいのか、案内されるまで待っていればいいのか。事情がわからないというのは何と不便なことだろう。

ブルースとは話が盛り上がった。仕事や英語の勉強、将来の夢に彼が学生時代の情熱を持ち続けていることがうれしかった。彼は泊まっていけと言う。そして、東海岸への飛行機は一日延期しろ、ロスを案内してやると言う。キャンパスには到着が一日遅れても大して影響はないだろう。航空会社に電話すると、追加料金なしで変更できるという。

翌朝、会社に行ったブルースが2時間ほどで戻ってきた。午後早くに早退してくるつもりだったが、せっかくなので休みをもらってきたという。ありがたい友人だ。

朝食はふたりでマクドナルドに行った。今ほど浸透していないとはいえ30年前の日本にもマックはあったし、私も梅田の地下街でハンバーグを買って食べたことがある。しかし、果たしてアメリカのマックも同じシステムなのか、どうやって注文するのか定かではない。

ともかくカウンターに行って、商品リストからいくつか商品を選び、これらを欲しいと伝えた。ところが、販売員の若い女の子の言っている事がよく分からない。何度も聞き返した。音は分かるのだが、何を意味しているのか分からない。

"For here or to go?"

「ここか、行くべきか??」
私がきょとんとしていると、ブルースがさらりと救いの手を差し伸べた。
「ここで食べるか、持って行くか聞いてるだけや」
なるほど。日本では聞いたことも習ったこともないフレーズだが、なんと簡潔で的確な英語表現なんだろう。こういう表現は実際に体験しないと身に付かない。

学生時代、英語では誰にも負けないと若干自信過剰気味だった私だが、この時はブルースがいてくれてなんと心強かったことか。就職して一年半、アメリカに来てまだ半年しか経っていないブルースは、私よりもはるかに成長したようで、輝いて見えた。

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01:51:19   アメリカ留学記  | コメント(2)  | トラックバック(0)

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コメント

こんにちは

LAに知り合いがいらっしゃると心強いですね。がんばってください。

Misa  [URL] #wJ1Zorw6  | 2008年03月15日 02:24:51  [修正]

ありがとうございます

Misaさん、コメントありがとうございます。LAで勉強されているんですね。留学生活思い切り楽しんで下さい。この記事に書いたエピソードはもう30年近く前の思い出話で、それ以来LAもかなり変わったことでしょう。またぜひ訪れてみたいですね。

Taro Who?  [URL] #DFBJiU5Y  | 2008年03月15日 03:35:09  [修正]


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Taro Who?/フウタロウ

管理人 : Taro Who?/フウタロウ
理系研究者からビジネス現場の通訳・翻訳・マーケティングサポートを経て、現在はもっぱら大学・大学院で理系英語・翻訳・プレゼン・ライティング等を教える。また、理系英語教育プログラム、脳科学的アプローチに基づく英語学習、通訳訓練法、通訳・翻訳理論を研究する。しばしば仕事はそっちのけで、旺盛な好奇心のおもむくまま、あらゆるジャンルに首をつっこみ雑文を書く。砂漠とロッキー山脈が大好きだが、最近はとんとご無沙汰。もっぱら仙人生活を送っている。でも、パーティーとおしゃべりは嫌いじゃない。日本生まれ、日本在住。20代から15年間アメリカで過ごす。

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