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異文化と異次元の旅人

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2008年03月09日 (日)

【留学記】 出発前夜危機一髪

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ここ数年、留学を目指している大学生を教える機会が多いので、しばしばアドバイスを求められる。まだ不安がいっぱいの20才前後の若者たちには、楽しいことばかりではなく、乗り越えるべきハードルも多い。ホームシックにもなれば、絶望感に苛まれることさえあるかもしれない。

しかし、あとで振り返れば、楽しいことよりも辛かったこと、苦労した経験の方が成長につながることが多い。それに、話のネタとしても、自慢めいた成功話よりもドジや失敗談の方がはるかに面白いではないか。私自身の留学生活を振り返ってもハチャメチャなエピソードの連続だった。今だから笑って話せるが、本人はその時その時で大変な苦労をして乗り越えてきた。

私は1980年の夏に、一年間の奨学金を得てアメリカに渡ったが、貯金もなければ仕送りもない。さらに、アパートの家賃を一年分残していかなくてはいけないので、出発直前まで進学塾の夏期集中セミナーに追われていた。

出発前日の夕方5時頃にようやく最後の授業を終えて家に戻ると、後輩がふたり車で会いに来てくれた。ちょうど兄のところに挨拶にいく必要があったので、車に乗せてもらっていっしょに出掛けた。ところが、細い路地から出るやいなや、なんと暴走族の車数台に前と後から挟まれてしまった。

その辺りには厄介な連中が多い。後輩が車を止めると、口をひん曲げたちんぴら風の若い男が近づいてきた。「飛び出してきやがって、この野郎」と怒鳴っている。どうやら我々の車が自分たちの前に割り込んだと怒っているようだ。地理に不慣れな後輩の運転にイライラしたのだろう。「窓を開けろ」と叫んでいる。

こんな連中に関わるとまずい。助手席に座っていたもうひとりの後輩と後部座席にいた私は、開けるな、逃げろと小さい声で繰り返した。ところが、運転をしていた後輩は、何を考えたか、仏頂面でウィンドウを下げた。外の男が、顔をつっこまんばかりの勢いで、「このあほんだらぁー」とののしり続ける。

事態の深刻さを察知した私と助手席の後輩は、今度は「あやまれ、あやまれ」と忠告した。すると運転していた後輩は、相手の顔も見ずふくれっ面で「すんません」とぼそっともらした。この態度が相手の怒りにさらに火をつけたようだ。窓越しにいきなり強烈なストレートが飛んできた。ボコッと大きな鈍い音がして、後輩の頭部が激しく揺れた。

しまった。世間知らずの後輩が、やらかしてしまった。これで事情は完全に変わった。可愛い後輩が殴られてしまったのだ、先輩としてはこのまま放っておけない。やるのかやらないのか。

と、その時、さらに2~3台の車がやってきて止まった。でっかいパーマ頭の細身の男はじめ、数人の悪そうな若い男達が「なんやなんや」と肩をいからせて車から降りてきた。木刀のような物を持っているヤツもいる。

これはかなりヤバイ。向こうは10人近くいそうだ。こっちは3人。もし、先輩のメンツで一戦交えたとしても、ボコボコにやられるのは目に見えている。腕の一本や二本折られるかもしれない。何もない状況なら、後先考えずに殴り合ったかもしれないが、明日はアメリカに向けて飛び立つ晴れの日だ。まだ荷造りもしていない。

ほんの一瞬あらゆるシナリオが頭の中を巡った。やはり、一番大切なのは、せっかく掴んだ一生に一度の留学のチャンスだ。顔をあざだらけにして腕を三角巾で吊ってアメリカに渡ることはできない。ここは我慢しなくてはならない。そう冷静に判断した私は、車から飛び降りると、男達の前でひたすら頭を下げた。「すみません、すみませんでした。本当に申し訳ありません。このとおり、謝りますから、どうか許して下さい。」

もちろん、屈辱だった。こんなちんぴらどもに頭を下げている自分が情けなかった。力のない自分が悔しかった。しかし、これが正しい判断なのだ。俺はスーパーマンではない。男達は散々悪態をつきながらも、それ以上暴力を振るうこともなく、引き上げていった。

殴られた後輩は右側の頬が青く腫れ上がっている。後年聞いたところでは、時間が経ってからさらに顔が倍に腫れ、2日会社を休んだらしい。それでも、それ以上の被害がなかったのは不幸中の幸いだった。

男道を任ずる兄に事情を話すと、「後輩が殴られてんのに、お前はそれでも男か!」と散々罵られたが、私は頭をたれて黙って聞くしかなかった。一番悔しいのは私自身だ。

後輩の顔をしばらく氷で冷やしてもらってから、ふたりを帰し、そのあと私は徹夜でスーツケースに荷物を詰め込んだ。午前中の飛行機に間に合うかどうかギリギリのタイミングだった。まるで私の人生を象徴しているかのような事件だった。

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Taro Who?/フウタロウ

管理人 : Taro Who?/フウタロウ
理系研究者からビジネス現場の通訳・翻訳・マーケティングサポートを経て、現在はもっぱら大学・大学院で理系英語・翻訳・プレゼン・ライティング等を教える。また、理系英語教育プログラム、脳科学的アプローチに基づく英語学習、通訳訓練法、通訳・翻訳理論を研究する。しばしば仕事はそっちのけで、旺盛な好奇心のおもむくまま、あらゆるジャンルに首をつっこみ雑文を書く。砂漠とロッキー山脈が大好きだが、最近はとんとご無沙汰。もっぱら仙人生活を送っている。でも、パーティーとおしゃべりは嫌いじゃない。日本生まれ、日本在住。20代から15年間アメリカで過ごす。

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