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異文化と異次元の旅人

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2007年07月18日 (水)

学生を怒鳴りつける

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先日、教室で爆発してしまった。ある学生の態度が悪かったのだが、これほど怒鳴ったのは初めてだ。それも、大学院の授業で。

最初の授業で自己紹介した時の彼は、気さくで人懐っこそうな印象だった。ところが、いざ本格的に授業が始まってみると、ずっと落ち着きがない。内容に興味がないのか、周りの学生達にちょっかいを出してはおしゃべりをする。宿題をしてこない。90分間ずっと居眠りしていたこともある。何度か理由もなく欠席した。英語プレゼンの授業なのに、肝心の中間発表の授業を欠席した。

最近の教育現場では落ち着きのない生徒が増え、学級崩壊が大きな問題になっているが、それは小学校か、せいぜい大学1~2年生までだろう。まさか研究が中心となる工学系大学院で、これほど注意散漫な大学院生に出会うとは思わなかった。この大学院には、いわゆる「就職浪人」で大学院に残った学生も毎年何人かいて、やはり授業に身が入らず、扱いに苦慮してきたが、その中でも彼は特別で、まるで小学生のようなふざけようだ。

これまでも、グループワークに集中していない彼のそばに行って、肩に手を置いて促したり、やさしく冗談交じりに注意したことはあった。しかし、この日はそんな生やさしいものじゃない。私の怒声は、火山が大噴火したような激しさだった。

授業では最近ずっと本格的なプレゼンの練習が続いていた。それでなくても、人の前で話すのが苦手な日本人。特に理科系の人材は、素晴らしい内容を持っているにも関わらず、プレゼンが下手で、学会でもビジネス現場でも、一ランクも二ランクも低い評価しか与えられないことが多い。そういう悔しい現実を嫌と言うほど目にしてきた私は、自分の教え子達のプレゼン能力を何とか世界レベルに引き上げようと、指導にも力が入る。

グループごとにモデルプレゼンの練習をさせ、教室を順にまわっていた時だ。彼が椅子の背にだらしなく腰掛け、テキストを棒読みしている姿が目に入った。「もうちょっと真剣にやれよ」と軽く声をかけると、「ふぁ~い」と気のない返事で、こちらを見るでもなく、姿勢を正すこともなく、やる気のない棒読みを続ける。プレゼンなんて、練習でいくら上手くできても、本番では半分もできない。だからこそ、真剣に練習する必要がある。

「態度が悪いぞ。学会の本番でもその調子でやるのか?」と重ねて注意すると、「ホ~ンバンでは、やりませんよ~」とふてくされた返事。さすがにそれ以上我慢できなかった。授業をなめている。感情的に怒るというより、貴重な学習機会をみすみす捨ててしまっている彼の愚かさを許せなかった。

彼らが社会人になってからどれだけ苦労するかは容易に想像できる。その時に学生時代の不勉強を後悔する姿もありありと目に浮かぶ。さらに、後悔してから習おうと思っても、そう簡単に適切な指導を得るのが難しいことは、自分が企業で指導してきた経験からよく分かっている。だからこそ、彼らには今この貴重な経験を生かして必死で学んで欲しいと熱が入る。

「何をふざけているんだ!何故お前はいつも真面目にやらないんだ!もう教室から出ていくか!」と怒鳴った。他の学生達はこちらを見ることなく、練習を続ける振りをしていたが、明らかに体が固まっている。冗談と余談が売りの私は、熱いと言われることはあっても、声を上げたことはこれまで一度もなかった。教室中に緊張が走る。

ふざけていた学生は、少し姿勢を正して、「出て行きません」と答えた。「じゃ、真面目にやるか?」と畳みかけると、こちらに目を向けないものの、「はい」と言う。もしかしたら反発して部屋を飛び出すのではないかと若干心配していた私は、彼の素直な反応に少し驚いた。

その後、何にもなかったように教室を巡回し、またやさしく他の学生達の指導を続けたが、私の心は、彼を怒鳴りつけたことで暗く沈んでいた。いくら態度が悪いとはいえ彼は学生、私は指導する立場の教師だ。どんなに正論でも、怒鳴られれば感情的に反発するのではないか。そうすると、私の行為は教育的には逆効果だったかも知れない。彼には彼なりに反発する事情があるのかも知れない。それを理解してあげなかった私は教師失格ではないか。次から次と反省と自責の気持ちが湧き起こってくる。

10分ほど経った頃、教室で巡回を続けながら彼のグループの背後まで来たとき、しばらく立ち止まってから、他のメンバーの発表を聞いている彼の肩にゆっくりと手を置いて、「どうだ、ちょっとは上手くなったか?」と声をかけた。

やはり愛情は示しておかなくてはいけない。怒鳴ったのは怒ったのではなく、君のために叱ったのだ、オレはずっと君のことを気にしているぞということを、言葉に出さなくても態度で示しておかなければいけない。彼が誤解して感情がこじれてしまう前に、しっかりと伝えておかなくてはいけない。

彼が私の気持ちを理解してくれたのかどうかは分からない。しかし、「もちろんですよ。もう3回もやりましたから」と屈託のない返事を返す。少しホッとした。

しかし、やはり学生に怒鳴ってしまったのは良かったのかどうか。教育者として適切な行為だったのかどうか。疑問は消えない。その後一週間、悩み、落ち込んでいた。

一週間後の最後の授業、今学期の総まとめとして、全員が自分の研究について短いプレゼンを行った後、アンケートにも記入してもらった。ベルが鳴って学生達と最後の挨拶を交わし、閑散とした教室で、アンケートの自由記述をパラパラとめくっていると、一枚の素っ気ない回答用紙が目に留まった。

「最後までバカしてた僕を見捨てず、叱ってくれてうれしかったです。」

ちょっと幼稚だが丁寧な字で書かれていた。「何だよ、大学院生にもなって小学生みたいに甘えて」と突き放すのは簡単だが、今の時代、もしかしたら大学院生達でも、精神的な悩みをたくさん抱えているのかも知れない。少なくとも、私の取った行為は間違っていなかったようだ。彼の心に響いたようだ。その晩、一人でささやかな祝杯をあげた。

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プロフィール

Taro Who?/フウタロウ

管理人 : Taro Who?/フウタロウ
理系研究者からビジネス現場の通訳・翻訳・マーケティングサポートを経て、現在はもっぱら大学・大学院で理系英語・翻訳・プレゼン・ライティング等を教える。また、理系英語教育プログラム、脳科学的アプローチに基づく英語学習、通訳訓練法、通訳・翻訳理論を研究する。しばしば仕事はそっちのけで、旺盛な好奇心のおもむくまま、あらゆるジャンルに首をつっこみ雑文を書く。砂漠とロッキー山脈が大好きだが、最近はとんとご無沙汰。もっぱら仙人生活を送っている。でも、パーティーとおしゃべりは嫌いじゃない。日本生まれ、日本在住。20代から15年間アメリカで過ごす。

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